『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』

 説明描写を必要最低限にしぼり、観客に疑問を与える暇もないスピードで、あれよあれよという間にアクションを走らせることによって映画全編に爽快感をみなぎらせていた前作『M:I:Ⅲ』がまああれだけの出来映えだったのですから(敵のボスであるフィリップ・シーモア・ホフマンを移送中の際に起った橋の上での一連のシークエンスはこの10年で見られた銃撃戦では最も素晴らしいものの一つでしょう)、最新作『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』でアクションが時に停滞気味に見えてしまうのはある程度仕方ないことだと思います。
 とは言え、プロローグ的な位置づけの冒頭のシークエンスだって悪くないし、スピルバーグタンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』での素晴らしい電線滑走の実写版とも言うべき、ベルトを使用してのトム・クルーズの電線滑走もなかなか見応えがあります。ジェレミー・レナーの身のこなしも素晴らしい。(若手の中では最も姿勢が良い俳優だと思います。)
 それでもなお映画が停滞して見えてしまうのは、彼らがやっていることがだいたい無駄だからだと思います。実際優秀なエージェントであるはずのトム・クルーズらは起りつつある事態に対して何かしら有効な手だてを講じることが出来ません。お決まりのフェイス・マスクも今回は失敗に終わり、核弾頭発射のための衛星のコードを聞き出しても、コンピューターがジャックされて全く意味なく終わることになります。遠くに確かに見えていたはずの砂嵐にさえ、それに巻き込まれるまでは何ら有効な注意を払うことをしません。(ビルの外壁をよじ上るトム・クルーズが砂嵐に気付くくだりは一体何のためだったのでしょうか?タイム・リミットを設定してサスペンスを盛り上げるにしてはあまり機能していないように見られます。)やはり上映時間132分はこの題材にしては少し長い。
 一方で無駄が功を奏している面も確実にあります。メンバーたちが色々な局面で使うことになる道具が、このシリーズでは毎回そうですが、無駄に工夫がなされていて面白い。特に相手の視線を読み取ってスクリーンに立体映像を映し出す装置とか、コピー機の機能を持ち合わせたコンタクトレンズなんかは見ていてとても楽しい。
 この無駄の功罪両面をどう受け取るかですが、まあ見てみて損はないのではないでしょうか。