リラの門

リラの門 [DVD]
玉田です。デス・プルーフを書いたあとに、このルネ・クレール監督の作品を書くのは、我ながらいい選択かと。なにせ、クレールの代名詞は「慎ましさ」ですので。

この作品、劇場で見たんですが、終わった後あまりに面白過ぎて圧倒され、席から立てなくなりました。1957年のルネ・クレールの監督作品。

あらすじは、飲んだくれの貧乏な中年男とその友達の貧乏なシャンソニエが、ハンサムな犯罪者を家の地下倉庫にかくまう。逃走準備も手伝ったりしているうちに、次第に友情が生まれるが、その犯罪者に二人の行きつけのカフェの娘が恋してしまい、実は飲んだくれの主人公はその娘さんのことが好きで…

どこが面白いって全編なんだけど、最初見始めたときは少々驚いてしまって。と言うのも、オープニングクレジットの音楽が、クレールの作品にあるまじき物悲しい暗い音楽だったし、ファーストカットも暗い。軽妙じゃないクレールなんてクレールじゃない!って思ってたら、いや、始まってみたら軽妙でした。最初のカフェのシーン、人物の登場のさせ方が洒落てる。カフェの主人が新聞を読むカットが洒落てる。娘に犯罪者の存在がばれるシーンが洒落てる、警察犬が、フォアグラの缶詰が、主人公と娘さんの会話が……。

もう、いちいち洒落てて軽妙で、結構主人公たちヤバい状況なんだけど、そんなこと映画自体が忘れちゃってました。だからこそ、主人公を捕まえに警察がやってくるシーンは緊張感が一気に高まるんだけど…、見ていただくと分かりますが、そっちかい!!!ってなります。

フランス詩的レアリスムの始まりと言われる、『巴里の屋根の下』を撮ったのに、それ以降はフランスの詩的レアリスムの「暗さの美学」とは、ほとんど無縁に見える軽妙な映画を撮ってきたクレールが、1957年というヌーヴェル・ヴァーグが起らんとしているときにこの大傑作をもって詩的レアリスムに幕を引いたと考えると、結構面白い人です。

ルネ・クレールの作風を示す象徴的な(あくまでも象徴ですが)箇所があります。
娘さんが犯罪者に、無人のはずの家で、夜に会っているところを近所の人が見て、それを証言するところなんですが、「娘さんが家を出ると、玄関のドアがひとりでに閉まった。中に誰かがいたってことだ」なんて言う。別に、「誰かといたけど、暗くて相手の顔は分からない」とかでも何の問題もないのに…。やっぱり洒落てる。

あと、拳銃の撮り方、使い方、上手いです。それにしても、拳銃を出しても、死の危険が何となくするかなって程度なのがクレールの凄いところです。