ムーンウォーカー

彼は死んだ。
本当だろうか?
私たちは「彼は死んだ」と思っているが、彼は「私が死んだ」とは思えないはずだ。つまり彼はまだ踊っている。
ムーンウォーカー』はマイケルのプロモーションビデオみたいな映画だ。悪人に連れ去られたいたいけな少年をマイケルが救出するという(今考えると大変な)ストーリーは一応あるが、ほぼ全編、Jackson5時代を含むマイケルが踊り通すだけと言って良い。
冒頭を見て欲しい。ライブ映像。“MAN IN THE MIRROR”を歌うマイケルの声の震え方、細かい動作の切れを見よう。
あまりに美しい人工性に鳥肌が立つ。
私たちは、人工性の極地で、自然さから最も遠く離れた一人のポップシンガーに、素朴な自意識を見る。無論、それは錯覚に過ぎないだろう。
しかしマイケルは錯覚を作り続けた。手術と倒錯に身を浸しながら。苦しみに満ちたネバーランドから。
ムーンウォーカー』の代わりにハーモニー・コリンの『ミスター・ロンリー』を挙げることはできない。あの映画はまだ生きているマイケルを過去に置き去っていたからだ。
私たちは『ムーンウォーカー』で、マイケルが生きている時間がいかなるものであったかを見よう。
それはやはり薬臭く、苦しげかもしれない。しかし、マイケルはどうしても美しく踊ってしまう。
それに魅了されること。私たちにはそれしかできない。


工藤鑑