サマーウォーズ

北見さんと記事被っちゃうけど、この映画に対してはいろいろ言いたいことがあったので、ご容赦願いたい。
あらすじについてはもう解説しない。あと、見たことない人にはチンプンカンプンだと思う。


この映画にはいわゆる「三種類のヒーロー」が登場している。
一人目は小磯健二。彼は「何の能力も素質もないが、一人の大切な人のために周囲や状況を変えてしまうヒーロー」である。俗に言う「もう一人の主人公(主人公なのに全然強くないやつ)」的立場にいる。
二人目はキングカズマ(池沢佳主馬)。彼は「圧倒的な力と不屈の意志をもって何度でも敵に立ち向かうヒーロー」である。要するに典型的なヒーロー。佳主馬本人が、ではなくてネットの住人であるキングカズマが、ではあるが。
三人目は陣内侘助。彼は「過去に重大な過ちを犯したが、その罪に気付き必死で償おうとするヒーロー」である。いわゆるダークヒーローに近い。
しかし、ヒーローはこの三人だけではない、夏希はラブマシーンとの最終決戦で花札で戦うし、栄は人脈でラブマシーンと戦い、健二を励ます。その他のキャラクターだってかなり個性が強いし、そもそも登場人物がめちゃくちゃ多い。
要するにこの作品、ヒーローの見本市みたいなことになっているのだ。
それはなぜかと言うと、この作品の根底に「人間関係」というテーマがあるからだ。
なんといったって敵の名前が「ラブマシーン」である。これは侘助アメリカに行く直前に日本で流行っていた曲だからという設定もあるだろうが(侘助が渡米したのが2000年、モーニング娘。の『LOVEマシーン』が発売されたのが1999年)、明らかに制作者の作為を感じるネーミングである。というのも、このAIは知識欲を持ったAIである。何かを好きだということは、それについてもっと知りたいと思うことである。故に知識欲の固まりであるラブマシーンはまさしく愛の機械なのである。
この映画を『マトリックス』的なアナログの人間対支配欲の強い機械といった図式で解説する人がたまに見受けられる(王様のブランチでの紹介がそうだった)が、そこに私は否を唱えたい。彼(?)はネットの世界に対して愛情(知識欲)を抱いていて、そこに「関係」を構築したかっただけである。ただそのやり方が間違っていた。彼の行動を追ってみてほしい。それはただかまってほしくて悪戯している子供のようではないか。彼は敵ではあっても、悪ではない。もう少し状況が違えば、彼だってヒーローになれたはずなのだ。


というのが私の考えです。制作者がどう考えていたかなんて知らないし、「ウォーズ」って言う位だから戦争映画として、善対悪として、アナログ対デジタルとしてみることも可能だろうとは思う。
ただ私には、人間関係の始まりを描いた作品であるように思われる。だからこそ、終盤、世界中の人々が夏希にアカウントを預け、「私たちの家族を守ってください」と言うシーンで涙が止まらないのだ。それは元気玉などとは全く違う次元の話なのだ。


主人公の健二は映画の中で何度も「よろしくお願いします」という言葉を使う。この人間関係を始める際の言葉を彼はクライマックスで唐突に使う。彼は誰に向かって言っているのだろうか。そこから考えだして逆算すると、どうしてもこういう見方になってしまうのです。



尾崎