『群衆』(キング・ヴィダー、1928)

大物になる夢と自信を抱いてニューヨークに来た一人の男が、結局は群衆に呑みこまれて行く様を描いた作品とされているけれども、最後のトラックバックは決してこの男のアンハッピーエンディングではない。というより、この男の、全体を通して見れば決して幸福とは言えないこれまでの人生の細部に宿り、観客の私が目にしてきた笑顔、涙、力強さ、優しさといった輝きを、おそらく主人公と同じように群衆に呑みこまれたはずの他の個人個人にも、観客が想起し一挙に群衆の中に潜在する何らかの契機を見出すことを可能にする。